全国自治体別・家庭部門の新電力への切替状況調査
- 環境・エネルギー政策部 池田 陽平
- 社会公共政策部 古屋 花
1.はじめに
エム・アール・アイリサーチアソシエイツ(株)は、生活者市場予測システム(mif)の全国30,000人のアンケートパネル調査結果をもとに、都道府県別、指定都市別に家庭の電気契約の新電力への切替状況を調査しました。
2016年4月に始まった電力小売全面自由化により、家庭でも契約する電力会社を自由に選択できるようになりました。これに伴い新しい電力会社(新電力)の参入が増加(2017年12月1日現在445事業者が登録1)しており、各社が様々なプランを提供しています。消費者は、電力会社を料金体系や付帯サービスの内容で選べるだけでなく、環境に配慮した再生可能エネルギーで発電された電気の購入や、近隣地域で発電された電気の地産地消をすることもできるようになりました。
図1 電力供給の仕組み(出所:資源エネルギー庁)
一方で、既存の大手電力会社から新電力への切替率には地域差がある状況です2。本調査で明らかになったより詳細な地域別の切替状況は、今後の電力小売事業の見通しにとって重要であり、また、各自治体のエネルギー政策・地球温暖化対策の立案・検討にも活用できます。
2.調査結果
2.1 新電力の地域別シェア
2017年6月末時点で、大手電力会社から新電力への切替率は全国平均で10%となっています3。大手電力会社の旧管内エリア別の切替先の新電力のシェアを図2に示します。
図2 切替先の新電力のシェア(2017年6月末時点)
全国ではガス会社(東京ガス、大阪ガス、北海道ガスなど)が35%と最も大きいシェアを確保しています。特に東京電力エリア(42%)、関西電力エリア(35%)、北海道電力エリア(35%)でのシェアが大きく、大手ガス会社がシェアを獲得していることが分かります。また、ガス会社に次ぐ全国シェアの通信会社(KDDI(auでんき)、J:COM(J:COM電力)、ソフトバンクなど)は、各エリアで一定のシェアを確保しており、全国的な販売展開を確認できます。
2.2 都道府県別・指定都市別の切替率
次に、都道府県別の新電力への切替率を表 1と図3に示します。北海道、関東地方(茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)、近畿地方の一部(滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県)及び鹿児島県の切替率が高くなっています。神奈川県が17%と最も高く、次いで東京都、大阪府がそれぞれ15%でした。反対に、東北地方、北陸地方、中国地方、四国地方は切替率が低くなっています。なお、沖縄県は家庭向けの新電力が参入していないので0%となっています。
同様に、指定都市別の新電力への切替率を表 2に示します。堺市が22%と最も高く、次いで横浜市が19%、札幌市、川崎市、神戸市が16%でした。
表 1 都道府県別の新電力への切替率(2017年6月末時点)
都道府県 | 新電力への 切替率 |
回答者数 | 都道府県 | 新電力への 切替え率 |
回答者数 | 都道府県 | 新電力への 切替率 |
回答者数 | |||
- | 全国 | 10% | 29,897 | 16 | 富山県 | 2% | 210 | 32 | 島根県 | 3% | 101 |
01 | 北海道 | 13% | 1,233 | 17 | 石川県 | 2% | 254 | 33 | 岡山県 | 4% | 413 |
02 | 青森県 | 3% | 281 | 18 | 福井県 | 1% | 135 | 34 | 広島県 | 5% | 668 |
03 | 岩手県 | 6% | 255 | 19 | 山梨県 | 8% | 150 | 35 | 山口県 | 5% | 293 |
04 | 宮城県 | 3% | 612 | 20 | 長野県 | 6% | 402 | 36 | 徳島県 | 5% | 138 |
05 | 秋田県 | 3% | 229 | 21 | 岐阜県 | 5% | 425 | 37 | 香川県 | 5% | 198 |
06 | 山形県 | 5% | 220 | 22 | 静岡県 | 8% | 750 | 38 | 愛媛県 | 4% | 332 |
07 | 福島県 | 6% | 309 | 23 | 愛知県 | 7% | 2,004 | 39 | 高知県 | 0% | 99 |
08 | 茨城県 | 10% | 467 | 24 | 三重県 | 6% | 330 | 40 | 福岡県 | 8% | 1,395 |
09 | 栃木県 | 9% | 358 | 25 | 滋賀県 | 9% | 247 | 41 | 佐賀県 | 6% | 161 |
10 | 群馬県 | 10% | 308 | 26 | 京都府 | 14% | 604 | 42 | 長崎県 | 4% | 283 |
11 | 埼玉県 | 13% | 1,713 | 27 | 大阪府 | 15% | 2,259 | 43 | 熊本県 | 4% | 333 |
12 | 千葉県 | 13% | 1,541 | 28 | 兵庫県 | 13% | 1,321 | 44 | 大分県 | 4% | 225 |
13 | 東京都 | 15% | 4,023 | 29 | 奈良県 | 11% | 367 | 45 | 宮崎県 | 3% | 187 |
14 | 神奈川県 | 17% | 2,490 | 30 | 和歌山県 | 6% | 180 | 46 | 鹿児島県 | 10% | 267 |
15 | 新潟県 | 4% | 513 | 31 | 鳥取県 | 6% | 132 | 47 | 沖縄県 | 0% | 243 |
図3 都道府県別の新電力への切替率(2017年6月末時点)
表 2 指定都市別の新電力への切替率(2017年6月末時点)
指定都市 | 新電力への切替率 | 回答者数 | 指定都市 | 新電力への切替率 | 回答者数 |
札幌市 | 16% | 647 | 名古屋市 | 8% | 708 |
仙台市 | 3% | 426 | 京都市 | 13% | 386 |
さいたま市 | 12% | 338 | 大阪市 | 13% | 723 |
千葉市 | 14% | 292 | 堺市 | 22% | 185 |
横浜市 | 19% | 1,099 | 神戸市 | 16% | 442 |
川崎市 | 16% | 429 | 岡山市 | 3% | 194 |
相模原市 | 15% | 193 | 広島市 | 6% | 315 |
新潟市 | 3% | 232 | 北九州市 | 9% | 229 |
静岡市 | 8% | 143 | 福岡市 | 9% | 572 |
浜松市 | 8% | 181 | 熊本市 | 5% | 190 |
3. 切替率の差異要因の分析
北海道、関東地方、近畿地方の切替率の高さには2.1で示した大手ガス会社各社の販売攻勢が寄与していると考えられます。
また、電力会社を切り替えた又は切り替えを検討していると回答した人の約6割が「月々の電気料金が安くなりそうだから」をその理由に挙げており、電気料金の水準は消費者の選択にとって重要です。電力小売全面自由化前(2015年12月)の標準家庭における電気料金と、対応する大手電気事業者供給エリアの都道府県別の切替率調査結果(2017年6月末時点)を図4に示します。
図4 大手電力会社の電気料金水準と供給エリアの新電力への切替率
出所:資源エネルギー庁「電気料金の水準」(平成27年11月18日)と本調査結果より作成
これによると関西電力、北海道電力は電力小売全面自由化前の電気料金水準が高く、該当エリアの切替率も高くなっていることが分かります。なお、沖縄電力を除く大手電力会社は、原発停止による燃料費の増加等により収支が悪化し、7社が料金の値上げを実施しています4。このうち、値上げをしていない北陸電力エリア、中国電力エリアは切替率が低く、大手電力会社の値上げの有無や程度が消費者の関心・意欲へ影響している可能性があります。一方で、東北電力エリア、四国電力エリアは値上げをしていますが、切替率が低くなっています。
また、地域別の新電力の供給状況も切替率に影響していると考えらます。エネチェンジ株式会社が提供する電力比較サイト「エネチェンジ」5によれば、地域別の家庭向けに電力を供給している電力会社(大手電気事業者を含む)と料金プランの数は図5のとおりです。これによると東北電力エリア、北陸電力エリア、中国電力エリア、四国電力エリアは、家庭向けに販売する電力会社が少なく、切替率の低さに影響している可能性があります。
図5 大手電力会社の旧管内エリア別の電力会社数と料金プラン数(2017年12月13日時点)
出所:エネチェンジ株式会社の電力比較サイト「エネチェンジ」より作成
4. おわりに
本調査により、都道府県別、指定都市別の家庭の新電力への切替状況が確認されました。地域によっては切替率が20%を超えており、電力小売全面自由化から1年あまりで新電力が急速にシェアを伸ばしている実態が明らかになりました。一方で、地域別には切替率に大きな差異があることも分かりました。その要因としては、大手ガス会社各社の販売拡大や大手電力会社の電気料金の水準等が考えられますが、今後の調査では地域ごとの消費者マインドにも着目する必要がありそうです。
また、今後の電力小売事業の見通しを考えるにあたっては、大手電力会社も様々なプランの提供を開始している点に着目する必要があります。例えば、東京電力エナジーパートナー株式会社は、2017年6月1日に、CO2を排出しない水力発電の電気のみを販売する、家庭向けでは国内初の料金プランを開始しています。消費者は、電気料金の水準に加えてこのような付加価値・サービスによって電力会社やプランを選択していくと考えられます。家庭部門の電力自由化を考える上では、今後は電力会社の選択だけでなく、電気のプランの選択にも注目した分析が求められます。