MRI Research Associates
社会システム事業部 都市・地域インフラチーム
PROJECT STORY02
安心して使える無線通信を明らかに
その先に浮かぶ、次世代の交通システム実現
ヒトやモノの移動において重要な役割を担い、発展してきた自動車交通。
しかし、今なお交通事故は無くならず、ドライバーの高齢化や人手不足も問題視され、
より「安全・安心」で「円滑」な移動を実現できる新たな手段が希求されている。
その一つに、国が推進する高度道路交通システムがあるのだが
更なるシステムの高度化・普及促進には
ITSの通信で利用する周波数帯および通信方式の検討・調整が不可欠だ。
村木 由利香

社会システム事業部
次世代モビリティチーム
研究員
2014年中途入社
国際文化学部公共政策大学院 経済政策コース専攻 修了

不動産系の会社で調査業務への興味が増し、MRAへ転職。以来、高度道路交通システム分野に関わる。先入観にとらわれずデータや状況もとに事実を洗い出す姿勢を大事にしている。産休から復帰したばかりで、育児と仕事の両立に励む日々。

Yurika Muraki
並木 裕之

社会システム事業部
次世代モビリティチーム
研究員
2019年中途入社
工学研究科建築学専攻

建設コンサルで自治体の仕事に携わる中、自動運転に触れ、これに少し川上から携わりたいとMRAへ転職。その経験が、現在の業務で大きく活きている。趣味は動画鑑賞で、ドキュメンタリー好き。社会問題から動物などまで幅広く観て、いろいろなものに興味を持つように心がけている。

Hiroyuki Namiki

01
プロジェクトの背景/目的

周波数帯や通信方式の統一で、メーカーやユーザーが受ける恩恵

自動車での移動を、さらに「安全・安心」「円滑・快適」に。そんな長年の願いに応え、自動車交通の姿を一変させそうなのが、交通状況に関する情報提供や走行における注意喚起などをドライバーに行う「安全運転支援」と、走行する状況に応じて加速・操舵・制動といった運転操作を人に代わってシステムが行う「自動運転」だ。

これらを実現するためには自動車単体の高度化が必要であるとともに、自動車が他車や路側インフラ等と通信し、様々なデータを取り入れながら走行することが求められる。つまり、最先端の情報通信技術を用いて「人・道路・車両」をネットワーク化することが重要であり、国では「高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport Systems)」の構築を推進している。

しかし、そこで課題となっていることの一つが、ITS用無線通信で利用する周波数帯や通信方式だ。これまで日本ではITS用無線通信の周波数帯に5.8GHz帯や760MHz帯を使用してきたものの、世界的には5.9GHz帯の割り当てが進んでおり、日本もその流れに沿う方向で検討が進められている。だが、この周波数帯の移行が簡単ではない。そして、使用する通信方式もバラバラであってはならない。


どうして世界に合わせ、5.9GHz帯を使う必要があるのか。

村木
「ITS用無線通信の周波数帯は、国や地域ごとに統一されることなく使われていましたが、2019年11月の世界無線通信会議において議論され、ITS用無線通信を国際的に調和させることが望ましいといった勧告が採択されたからです。このため日本においても、ITS用無線通信に5.9GHz帯を割り当てることが検討されることになりました」
並木
「5.9GHz帯で使用する通信方式についても決めることが重要です。これは、すべてのアプリケーションの通信方式を1つに統一するということではなく、『どの用途には何を利用するのか』という話です。例えば高速道路での合流において、本線を自動運転走行しているクルマと、本線へ合流しようと自動運転走行しているクルマが通信し合うことで、衝突することなくどちらも安全に走行し、合流を果たす。その際に同じ通信方式でなければ通信が成立しませんので、これに何の通信方式を使うのか、方式を統一しなければいけません。ほかにも通行料金を決済したり、交通情報を取得したりするなど、様々な用途で通信が行われますので、それぞれの用途や利用環境に適した通信方式が議論されています」
村木
「日本のメーカーが自動車や車載器を海外で販売したり、日本人が海外で自動車を運転したりする時にも、周波数帯や通信方式等は世界で調和している方が合理的です。メーカーは複数の方式や規格に対応した開発をする必要がなくなり、誰がどの国へ行っても同じように運転することができます」

そこでMRAとしては、どのようなプロジェクトに関わったのか。

村木
「日本でITSの通信に5.9GHz帯を割り当てるために、まずは既に5.9GHz帯またはそれに隣接する帯域を使用している別の通信システムへの影響や共用技術等を検討する必要があります。更に複数ある通信方式が、それぞれ5.9GHz帯でどれくらいの性能が出るのか技術的な特性を把握する必要もあります。国はそれらの課題に対して様々な実験・調査・検討を行うべく、プロポーザルで事業者を公募するのですが、その公募の際にクライアントが当社に協力を依頼してくださり、今回のプロジェクトに参加することになりました」

02
MRAの取り組み

国を越えたITSの知見、分野に縛られないPMOの経験

プロジェクトの推進には、多岐にわたる専門性が求められる。具体的には、「国内外における関連分野の知見」「実証実験の遂行力(計画作成、評価指標・計測データの検討、進捗管理、評価・分析など)」といったテクニカル面で。そして、「PMO*のノウハウ」「検討会開催支援のスキル」といったマネジメント面で。

※PMO:Project Management Officeの略。プロジェクトのマネジメントを横断的に支援する事務局や構造システム。

どのような理由からMRAに声がかかったのか。

並木
「当社のクライアントが官庁の実施するプロポーザルに参加するにあたり、当社に企画提案の支援を依頼してくださいました。クライアントには海外動向や実証実験の知見と、全体的な人的リソースに課題があったためです。当社では、国のITS用無線通信に係る案件に以前から携わっており、類似案件の実績から関連する知見を持ち、専門的かつ効率的な調査ができます。また異なる分野にはなりますがPMOや実証実験、検討会支援などの実績が豊富なことにも期待していただけたようです」
村木
「調査する上で、調査対象となる国での状況を知るためには、どの省庁のリリースを見たらいいのか。あるいは、どんな業界団体が力を持っていて、どのリリースやレポートを見たらいいのか。知見やノウハウがないと相当な時間がかかって非常に効率の悪い調査になりますし、的外れな調査結果を出しかねません。当社には『ここを調べればいい』というノウハウがありますので、効率的且つクオリティーの高い調査ができます。そしてPMOです。本案件では多岐にわたる作業項目があるため、マイルストーンとなる事項に遅延が出ないよう、我々がマネジメント業務をサポートすることで事業全体がスムーズに進む。この2点をすごく評価いただいたと感じています」

具体的に、MRAが担った支援業務は。

並木
「PMOであれば、『各作業項目の進捗管理、定例会の運営支援(司会進行、To Do確認、議事録作成・共有)、報告書のとりまとめ』。海外動向調査については『関連団体(行政、自動車メーカー、通信機器メーカー、業界団体、標準化団体など)の検討動向やレポート等の調査、検討会資料の作成』。実証実験では『計画の作成、参加企業説明会の企画・運営、連絡窓口、試験場事務局の設営』。そして検討会においては『日程調整、出欠確認、資料の調整・配布、議事録作成』といった多数の業務がありました。これらを当社ではプロジェクトメンバー4人で遂行。組織・個人として様々な知見や経験があったからこそ完遂でき、特に関連分野の知識や、通信に限らないITSに関する業界の知見、実証実験での経験が役立ったと考えています」

どのような点で苦労し、工夫をしたのか。

並木
「プロジェクトはまず目的を確認し、着地点に向けてどのような調査をするのか、所管の官庁とも調整してスコープ・オブ・ワークの整理から入ります。しかし、周波数帯の再割り当てや通信方式の検討には多くの課題があり、それらを全て解決するには様々な分野を横断するような膨大な情報が必要になります。また、有識者を交えた検討会などでは様々なご意見やご指摘があり、それらに全て応えようとすると、当初想定していたものとは別の調査も行う必要が出てしまいます。とはいえ、このプロジェクトは技術的な事柄に特化した調査検討であり、調査内容が多岐にわたると本来の議論がぼやけてしまう。本当にやるべきことをクライアントとも相談しながら遂行し、スコープを広げ過ぎず着地点に向けて進めることが重要です。いただいたご意見も取り入れながら、プロジェクトの大目的も鑑みて調査内容を決定することで、本案件の趣旨に合致した過不足の無い適切な調査を実施できたと考えています」
村木
「PMOの観点でいえば、コミュニケーションや情報発信を重視しました。プロジェクトには社内外合わせて総勢20名くらいのメンバーが参加していたことと、またタスクが膨大であったことから、期日が遅れないように、議論の後戻りが発生しないように、関係者とメールや電話で蜜にコミュニケーションを取るとともに、定例会の議事録は会議後すみやかに展開、重要な決定事項は定例資料に常に掲載する、期日等は口頭だけでなくメール等でも何度も伝える等、当たり前のことを案件がスムーズに遂行できるよう着実に実行しました」

「とにかく心がけたのは、最終顧客や弊社のクライアントが満足する形で3月末の納期に納品できること。期日を考えれば、関係者の要望すべてに応えることはできません。バランスをとりながら要望を取捨選択し、クライアントにもその他の関係者様にも納得いただけるよう丁寧なコミュニケーションに尽力しました」

社内では、どのような姿勢でプロジェクトに取り組んだのか。

村木
「私がプロジェクトリーダーとして心がけたのは、こまめにメンバーと進捗確認をして、社内でも手戻りを発生させないことでした。資料作成なら、事前に資料の目的と完成イメージを共有しておくことが大事だと思います。そして作業に対しては毎回、感謝の気持ちを伝えていました」
並木
「私はそんな姿を見て、いずれ自分もプロジェクトをリードする立場になるときのことを考えていました。メンバーが気持ちよく働けるかどうかは、成果の質に影響してきます。私自身、ITS関係の案件に今後も携わっていきたいという思いがあり、村木さんからすごく勉強させてもらいました」

03
成果と展望

次代の交通システム実現後も、活きるMRAの知見

単年で実施されるプロジェクトによって積み上げられていく成果で、いずれ実現されるであろう次世代のITS用無線通信。今回のプロジェクトにおける成果は、どのように今後へつながっていくのだろうか。


プロジェクトを終え、得られた成果とは。

村木
「ITS用無線通信の分野は、大きなゴールに向け課題を切り分け、長年にわたって一つずつ調査研究が行われ、毎年一歩ずつ前進している分野です。弊社が関わる案件でも今年度の計画を滞りなく完遂できましたので、周波数の再編や通信方式の決定へ向けた一歩に力添えができたと考えています」
並木
「当社は、ITS用無線通信に5.9GHz帯を割り当てるための議論が始まった当初からこの分野の案件に携わっています。当社が参加した関連プロジェクトでは、毎年着実に周波数帯の割り当てや通信方式の選択等の検討に資する結果が出せています。これにより当社としての目標である「社会課題を解決する」という理念は達成できているのではと考えています」
村木
「クライアントと更に良い関係が築けたことも成果と言えるでしょうか。『MRAがいなかったら、このプロジェクトはうまく進まなかっただろう』といった言葉をいただけたときは本当にうれしかったです。良い関係を築けたことで同じお客様から全く別の案件の引き合いをいただくなど、我々のさらなるモチベーションアップにつながっています」

このITS用無線通信に関わる事業の、今後の展望を。

並木
「周波数の再割り当てを確定するというマイルストーンは2025年くらいに置かれていますが、現在5.9GHz帯を使用している事業者らがおられるなど、5.9GHz帯はいわば有限資産であって様々な課題があります。国際的な協調のために、引き続き国際動向にも目を向けていかなければいけません。そして何より、ITS用無線通信は今後さらに伸びていく分野です。そこに我々としてはどのような関わり方をすべきか、どういったご支援ができるのか。まだ見えないところはあるものの、当社には蓄積してきた知見があるため、いかなる場面においてもお客様を支援していけると思っています。ITS無線通信が確かに利用できるものとなるよう、日本における滞りない周波数帯移行に寄与したい。私個人としては周波数帯だけではなく、この通信を利用した自動運転技術やインフラ整備などにも関わっていますので、自動運転を大きな視点でとらえ、社会でどう活用していくかに携わっていきたいです」
村木
「周波数帯の割り当て方法や通信方式に関する方針が正式に決定するまでは、引き続き同分野の案件に関わっていきたいと考えています。また、この分野においては民間企業での新規ビジネスの創出が予想されるため、ビジネスモデルの策定や実装等に関する支援もできたらと考えています。そこでは我々が関連プロジェクトで得た技術的な知識や、官公庁の同分野の案件で培ったノウハウが、きっと役立つと考えています」

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