MRI Research Associates
数理システム事業部 
広域社会解析チーム
PROJECT STORY10
「あるべき姿」を紡ぎ出し、
政策を、事業を、前へ進める
交通インフラやエネルギーインフラ、都市開発、研究・教育など、
有形・無形の様々な物事への投資によって発展を続けている社会。
しかし、国も地方も限られた資源を有効かつ適切に活用するため、
投資に関しても、その妥当性や透明性が厳しく問われている。
大田垣 聡

数理システム事業部
広域社会解析チーム
事業リーダー
2007年入社
工学研究科 社会開発システム工学専攻 修了

政策評価・事業評価を通じて、「社会のあるべき姿」を皆で「活力」「公正」「節度」「常識」のバランスをとりながら議論できる土壌づくりに取り組んでいる。週末のサウナが趣味で「下町の銭湯、カプセルホテル、健康ランド」など、いろいろなタイプのサウナに通い、英気を養っている。

Akira Ootagaki
高橋 千遥

数理システム事業部
広域社会解析チーム
2015年入社
経済学府 経済システム専攻 修了

本事業部に異動してからは数理解析と大学で鍛えた理論型の思考の融合が、仕事での自分のミッションだと思っている。
運動不足解消にヨガを始めたところ、長年の肩こりや腰痛が解消。週2回を目標にヨガ・ピラティスを楽しんでいる。

Chiharu Takahashi
髙村 望

数理システム事業部
広域社会解析チーム
2020年入社
工学研究科 市民工学専攻 修了

本事業部への異動後は特に、若手ではなくメンバーの一員として、しっかりとした意見やナレッジシェア、成果貢献等が求められている。趣味の街並み散策では、地元神戸とは違う東京の街・人・環境の良さを発見。古い家屋と最新マンションが混在する風景も面白い。

Nozomu Takamura

01
MRAの役割

たとえ不都合でも、
正しく伝えることが我々のミッション

投資が実施されるためには、投資で生まれる事業がどれだけ社会に貢献できるかの分析のほか、地域や経済主体への影響を計測し、投資による費用対効果を貨幣価値に換算する経済評価や、貨幣価値に換算できない影響も含めた総合評価の形で分析する必要がある。それを基に、利害関係者間の合意形成を含めた事業実施の判断が行われていくからだ。

そのような前提に立ち、どのような役割を果たしたのか。

大田垣
「例えば国の案件ですと、社会課題があり、これを解決するために政策を打ち出すことがあります。その際、『鉄道を新たに整備することで地域や主体の経済バランスがこのように変化します』といった説明をすることになります。そこで、変化をシミュレーションし、報告書にまとめるのが本プロジェクトの仕事です。三菱総合研究所(以下、略称MRI)とMRAで共同し、官・民における政策や事業によって発生する経済的な影響を評価しています」
高橋
「課題解決のためのストーリーを立て、施策を設計し、計測した経済的影響を報告書にしてクライアントへ納品しています。MRIとMRAは共同してプロジェクトを遂行します。主にプロジェクト自体を動かしているMRIは、利害関係者と対面で説明や折衝をすることも多く、利害関係者のニーズを汲み取ります。MRAは、そのニーズに適するように、計測手法の選定やデータの入手・作成、モデル実装、シミュレーションなどを行い定量化します。つまり、報告書内の数字的な根拠を、MRAが調査・作成しています」

評価において、重視されることは。

大田垣
「このような経済的影響の評価は、古くは19世紀ぐらいから行われていますが、最近はEBPM(Evidence-based Policy Making)という言葉が注目されており、政策評価や政策立案を数値に基づいて客観的に行うニーズが高まってきました。このため、政策の優先順位を決める時や、利害関係者への説明を行う際には、客観的な指標が必要とされます」
高橋
「そこで私たちも、『正しさ』や『信頼性』ということをとても重視しながら業務を遂行しています。評価によって誰かに不都合な数字が出たとしても、正しく伝えることがコンサルタントとしてのミッションだと考えています。その場合は、『伝え方』をよく考える必要があると思っています」

02
プロジェクトでの取り組み

計算に、確かなロジックと客観性を
そして、ポテンシャルを示して前進させる

「不都合な数字」とは、どのようなものなのだろうか。誰かに不都合であれば、利害関係者すべての合意形成は、そう簡単なことではないはずだ。もう少し詳しく聞いてみたい。

大田垣
「何か投資事業が行われる時には、やはり利害関係があり、メリットがある人とデメリットがある人が出てきます。後者はもちろん事業に反対されます。その際は、国全体あるいは地域にとってどのようなメリットがあるかを説明し、ポジティブな意識を醸成することで同意いただけるよう働きかけることになります。そこで、私たちの客観的な指標は、合意を形成する一つの材料となります」
髙村
「少し専門的な話になりますが、私たちの計算は『恩恵を受ける人が、それに見合った費用を負担しよう』という『支払意思額』に基づくものです。誰がどれだけ負担するかを考えるために、誰にどれだけ便益があるかを計算しているということです。ただ、こういうアカデミックな考え方は、実際にデメリットを被る人からすれば、受け入れ難いものです。よって、一般の人にも理解しやすい材料を提供しなければなりません。施策や事業の実施者が適切に財源を使っていることを説明するという意味でも、分かりやすいものにしようと考えています」

苦労したポイントは。壁のようなものはあったのか。

大田垣
「クライアントは事前に、経済的影響の大きさを感覚的にでも持たれています。これが私たちの提出した大きさと合わない場合があり、そうなると合意形成が難しくなります。つまり、期待するほどの経済効果がないという場合です。その時は、どのようなデータを使って計算し、参考にした学説や論文は何かなど、まずは根拠を示しロジックを通して説明するようにしています」
髙村
「MRAでは、公共事業評価のマニュアルに基づく客観的な評価手法を把握し、有識者と共同開発した分析手法を持ち、統計データを併用しつつ計算結果の妥当性検証をできるのも強みです。学会でも認められている手法を使って頑健な分析を行っています。そして、別のシナリオなり、不確実さも少し考慮した数字を考慮することで、幅をもった評価を行っています」
高橋
「投資には、直接的な便益だけでなく、地域から受ける効果もあります。国の統計データがあれば、それを元に人の動きなどを想定した効果を加えます。あるいは、事業者なり自治体が『こういったポリシーを持って街づくりをします』という政策を行うことで、クライアントが思ってもみない効果が生まれることもあります。そのようなことをいくつか組み合わせることで投資や事業としての『ポテンシャル』を示し、合意形成に導いていきます。これで苦労したのが高村です」
髙村
「そうですね。やはり、将来のこととなると不確実なことが多く、もちろん公的な統計がないものも多くあります。どこから探してこようか結構苦労しまして、その地域の大学が公表していた留学生の増加目標値などを利用したこともあります。いくつかの仮定は必要ですが、人の動きに伴う地域でのお金の動きを検討しました」

03
成果と展望

プロジェクトで得た、より貴重なノウハウと
知識のストックを、多様な分野へ横展開する

業務の性格上、具体的な地域名や投資内容を挙げた話は聞けなかったが、起きうる状況や苦労した点、チームの業務姿勢などが理解できた。このプロジェクトによって、さらに蓄積されたノウハウやアイデアがあっただろう。そして、そのようなMRAの貴重な知的資産の活用シーンを、今後どのように拡げていきたいと考えているのだろうか。

大田垣
「成果としては先に挙げた、事業を実施するか否かの政策判断や、事業の利害関係者間の合意形成支援を、『公共事業に関する費用対効果分析マニュアルやガイドラインに基づく評価』というオーソライズされた手法を用いて実行できるノウハウを得たことになります」

「モデルを用いて計算するためのデータや、モデルを表現するプログラムといったものを、大学の先生にご協力をいただいて作りました。投資と効果の因果関係や、モデル化のノウハウ、プログラム化、コーディングの手順、そしてモデル自体も、知識のストックになったと思います」

今回得た知識・経験は今後どのように活きるのか。

大田垣
「このプロジェクトにおける官公庁の政策評価・事業評価の支援によって培われた、社会経済分析のさらなる解析技術を活用して、『社会のあるべき姿』を実現するための課題や制約条件を、解決・解消することに尽力したいと思っています。こういった経済影響評価は、社会の様々な分野に横展開できるものです。よって、インフラや科学技術投資などの分野へ横展開していき、各分野で客観的に評価できるノウハウを確立して、MRAのさらなる強みにしたいと考えています」
高橋
「これまでは国土政策的な業務が多かったものの、これからは環境分野における再生可能エネルギーや、防災、公衆衛生でも今回の経験を活かせたら面白いと、私も思っています。そして、今後はグローバルという目線でも経済効果というものに向き合っていきたいと個人的には思っています。海外から影響を受けている日本の事象は何か、逆に日本が頑張ったことで海外にどのような影響を与えているか、といった関係性に目を向けていきたいです」
髙村
「先ほど横展開という話がありましたが、私はもう少し『垂直』に、人の生活を支えるインフラの経済評価を、より深く見つめていきたいです。オーソライズされた手法はありますが、それだけですと各インフラの価値を正しく計れない面があります。これは、学会でも最先端の研究になりますが、並行して実務でも何か取り組んでいけることがないか、学会の動向もキャッチアップしながら、自己研鑽していきたいと思っています」

Formation